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読売新聞12/3☆「ヨン様」頼み甘い見通し 岩山漆芸美術館4か月で閉館 



*読売新聞   2009/12/3
「ヨン様」頼み甘い見通し 岩山漆芸美術館4か月で閉館 


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ペ・ヨンジュンさんの作品「愛」(右奥)の傍らでは、ペさんが漆絵の制作に励む姿をテレビモニターが映し出していた(11月30日、岩山漆芸美術館で)



 盛岡市加賀野の岩山漆芸美術館が11月末で閉館した。入館者減で昨年11月に休館したが、人気韓国人俳優のペ・ヨンジュンさんを名誉館長に迎えるなど注目を集め、8月に再スタートしてからわずか4か月での幕切れ。「ヨン様」人気頼みの甘い見通しで美術館を再開させた結果でもあった。



 底冷えのする11月30日夕、大船渡市から1人でバスを乗り継いできた女性(65)は、岩山漆芸美術館の展示室で、40分ほどの間、身じろぎもせず1枚の絵画に見入っていた。

 「何も考えず、ついうっとりしてしまった」。女性の視線の先にあるのは、たて80センチ、横120センチの赤い曲線が印象的な漆絵。ペさんが制作した漆絵「愛」だ。傍らのテレビモニターでは、制作に励むペさんの姿が映し出されていた。

 「これで終わりになるなんて残念」。女性は閉館時間まで粘り、名残惜しそうに去っていった。

 漆芸美術館の建物は、元は紫波町出身の画家・橋本八百二(やおじ)が「盛岡橋本美術館」として1975年に開館した個人美術館だった。

 橋本美術館は、経営難で2001年に閉館。美術館は作品ごと盛岡市に寄贈された。市は、年に4000万円程度かかる運営費に加え、数千万円から億単位とも見られた改修費用の負担を避けるため、建物の改修や維持管理費を借り手が負担することを条件として、施設の運営主体を公募。そこに、市内で漆絵の制作を行っていた全龍福氏が名乗りを上げた。

 当時の経緯について、全氏は「公募の前に、市側から誘いの声がかかり、資金援助の約束もあった」と主張するが、市側の責任者だった桑島博前市長は「そんな約束はしていない。作品を売った資金で運営するという認識だった」とし、双方の言い分は食い違う。

 結局、全氏が改修、維持管理費とも負担し、美術館の開館にこぎつけたが、当初から資金面での見通しは厳しかった。

 昨年11月末に休館したばかりの美術館が、再オープンすることができたのは、ひとえに「ヨン様」人気によるものだった。

 ペさんは今年2月、漆絵を学ぶため、同館に1週間滞在した。その縁から6月には名誉館長に就任。全氏はさらに、ペさんが資本提供を含め、美術館の経営参加に前向きだとの見通しを市側に伝えた。

 これで市は舞い上がった。ある市幹部は「ヨン様の作品を目当てに全国から人が集まり、盛岡にお金を落としてくれるかもしれないと盛り上がっていた」と明かす。

 しかし、現実には、ペさんの経営参加が立ち消えになっただけでなく、月額の家賃52万円も開館から1度も支払われなかった。敷金157万円に至っては、振り込みがないまま、来年3月の退去が決まったことで、市側も催促することさえあきらめた。従業員の新規採用のために給付された「ふるさと雇用再生基金」からの交付金336万円も、美術館の運営費に流用されるという苦しい台所事情だった。

◇ 

岩山漆芸美術館を巡る経緯について、谷藤裕明市長は1日、「結果として脇が甘かったということは否めない」と語った。

 市は6月、同館の修繕のため1080万円をあてた。それも、今年度予算の中からかき集めて資金を工面し、市議会の議決を経ずに、予算執行するという強硬手段を講じてのことだった。

 それが4か月での閉館。滞納家賃の問題もある。税金を投入している以上、「結果」に対する責任は免れられない。(前田毅郎)



 全氏は、読売新聞の取材に対し、これまでの経緯について説明するとともに、美術館再開を強く主張した。

 ――これまでの美術館経営には無理があった

 黒字を出せる美術館が全国にどれだけあるのか。私は私財をなげうって、頑張ってきたが、この美術館を個人で運営するのは難しい

 ――橋本美術館を引き継いだ理由は

 この建物はユニークで素晴らしい。橋本八百二が残した宝物だ。ここから、漆文化のすばらしさを世界に発信したいと考えた

 ――ふるさと雇用再生基金の交付金を流用した

 私の勘違いだった。従業員は全員、地元採用だったので、従業員の給料に使って構わないと思っていた

 ――今後の見通しは

 滞納家賃は払う。その後、市と協議したい。美術館運営は私1人だけでは経済的に難しいので、市と県に協力をお願いしたい



 全氏は今後、作品を売却して滞納家賃を支払い、その上で同館を再開したいと主張するが、どれだけの金額になるのか。

 同館には全氏の作品約400点が所蔵されている。08年には高級国産腕時計に漆を施し、5250万円で販売した実績がある。3年がかりで制作した、たて2・4メートル、横18メートルの大作「岩手の魂」について、全氏は「1億2000万円にはなる。オークションに出したらもっと高くなる」とし、美術館のホームページには5万~200万円の値が付いた全氏の作品が並ぶ。

 国内最大手のオークション会社(東京)によると、美術品の値段はオークションや画廊での販売価格を総合して決まるが、「流通がほとんどない作家の作品は、本人の言い値が値段になる。それで買い手がいれば問題はない。全さんの作品はこれまでに取引が無く、値段はよくわからない」という。

 全氏が個人的に抱える借金の問題もある。先月には、仙台市の会社経営者から1000万円の返還を求められ、作品7点が盛岡地裁から仮差し押さえされた。山田町の建設業者も、500万円の支払いを求めて年内にも訴えを起こす構えだ。今後さらに債権者が増えれば、市が持つ滞納家賃210万円の回収すら危うくなりかねない。
by norikoiida | 2009-12-03 07:29 | ペ・ヨンジュン
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